赤いあらすじ
タイトルの彼岸花は9月の中頃になるとそこかしこに咲き始めます。真っ赤な花弁が目印。初めてカラーになった小津映画も彼岸花のような鮮烈なら赤色が印象的でした。
──主な登場人物
物語の始まりは東京駅舎の赤煉瓦から。東京駅は当時の新婚旅行の出発点。ひまな駅員が花嫁の品定めをしている無駄口トークがよい。後年のタランティーノ映画によく見る。
友人の娘の結婚式散会後に飲み直す初老の紳士三人組み。 礼服の黒が画面を圧迫している中で、左隅に置かれた赤いとっくりと、床の間の桔梗(?)が和ませる。
父の自宅。手前の赤いヤカンと奥の白磁の花器が人物の登場を静かに待つ。
帰宅する上の娘。例の赤いヤカンが迎える。白いショルダーバックに手袋。ショートカットの健康的なスタイルは“ビジネスガール“のお手本だ。
京都から訪ねてきた料亭の娘。やはり赤いヤカンが迎える。
着物の帯と椅子の毛布が外の光を反射している。赤がことのほか明るい。
訪問の目的は“東京のおじさま“に相談があるため。「帯の赤」と呼応するのは、敢えての「干されたセーター」。
恋人のアパートを訪ねる上の娘。 彼女の白いハンドバックと恋人の白いトレーナーが呼応している。ところが右隅の椅子にかかる毛布はなぜか赤と白だ。
父、会社の若い社員とバー「ルナ」にて。赤電話、ランプシェードなど赤がいっぱい。マダムのカンザシの飾り玉も赤だ。
父哀愁の図。暗い背広の背中を「赤い扉)と「唐辛子」の瓶が挟む。
物語の折り返し地点。白磁の花器の影が濃くなっている。そして「赤いヤカン」のそばには黄色い湯呑みが。
「赤いラジオ」から流れる長唄を聴きながら拍子をとるご機嫌な母。赤いヤカンは縁側の方へ移動している。
上の娘の結婚話でもめる夫婦。お互いの短所を言い争う。帰ってきた下の娘は姉を支持。赤いカバンがその気持ちを表しているようだ。
結婚前夜。女性だけのパーティーの様子。「赤いヤカン」も参加。いつもより目立つ。
ブドウの皮をむく母。それにしても浦野理一の染織りが可愛らしい。
下の娘の服装と赤いヤカンで画面を赤が占める。帰宅した父は買物した小包を背広から出した。
京都のお節介ガール。最後のお節介中。御召し物は浦野理一の染織。落ち着いた紺色から赤い裏地がのぞく。
その連絡を受ける母。画面の中のすべてが直線的に整っている風景は果てしなく美しい。小さな赤がポツンポツンと散らされている。
父が乗る特急列車のシート。奥には車掌か。結婚した上の娘夫婦が暮らす街に向かう車内だ。物語の最後は白に覆われていた。