東京ありがた記

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Arigataki is written in Tokyo.

利休にたずねよう、おもてなしとは?アートとは?

千利休、セクシー説

2019年の春、米国の現代アーティスト、トムサックスさんの展覧会が東京で開催されました。

その名も「TEA CEREMONY(茶会)」

展覧会会場にはショートフィルムを上映しているスペースがありました。

そこには NASAチェア と呼ばれるパイプ椅子が数列配置されています。

よく見るとひとつひとつに古今東西のセレブの名がマジックペンで書かれています。

その中には「RIKYU」や「CHOJIRO」の名もあったと思います。

RIKYUとは即ち茶人の千利休であり、CHOJIROは陶工の長次郎です。

その頃私はちょうど利休にたずねよという小説を読み、利休のイメージをアップデートしたばかりでした。

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物語は千利休切腹の当日から始まります。

このスリリングな日を起点に、利休を含めた複数の人物の視点でもって歴史的事実と事実の間を著者の想像したフィクションで紡いでいく趣向です。

信長や秀吉をはじめとする安土桃山時代の有名人が登場し利休の美意識と対峙します。

ところで利休作の茶道具のいくつかは現代に伝世しています。

それらは侘び寂びのコンセプトに沿って作られたものです。

作家は利休が作った真塗りの水差を実際に目にしたとき、艶っぽく感じたといいます。

利休は実はとても艶やかな男だったのではないだろうか?

だとしたらきっと鮮やかな恋をした人だったのではないだろうか?

そんな想像が執筆のきっかけとなり作者は物語の中にセクシーな要素をただよわせています。

私にとって千利休といえば桃山時代の有名な茶人という記号のようなものでしかありませんでした。

しかし本を読んだ今、本当の利休も小説のようにセクシーな利休であってほしいと私は思っています。

そう思えば小説の利休の一挙手一投足には愛がこもっていたように感じてきます。

例えば、ある理由から囚われた高麗の女の心情を察した利休は高麗の料理を自ら作り女に供しています。

その時高麗の言葉を添えることも忘れていません。

あるいは、秀吉の黄金の茶室をプロデュースした際、利休は畳と障子に鮮烈な緋色を配したといいます。

緋色が黄金に反射して艶っぽい空間を作り出す。

それはそれは世にもセクシーな光景だったに違いありません。

茶の湯はもてなしの心が大切だと聞きますが、本当に大切なのはその源泉が何であるかなのではないでしょうか?

桃山時代の現代アーティスト、利休のおもてなしの源泉がLOVEだったようにです。

 

利休以来の茶の湯イノベーション

さて、21世紀の現代アーティス、トムサックスさんの話には戻りましょう。

展覧会の期間中、トムさんのお点前が披露された日がありました。

私は度肝を抜かれました。

展覧会場に茶の湯の世界が構築されていたのです。

門があり蹲があり池もあります。

灯籠や松の木まであります。

そしてもちろん茶室も設てあります。

つまり露地が形成されていたのですがこれらはすべてDIYによって制作された歴としたトムさんの作品群でもあります。

茶会が始まるとホスト(亭主)であるトム さんが三人の客を伴って露地をゆっくりと案内しながらやってきました。

茶室にゲストが入るとまず供されたのはサケ(日本酒)とオレオ。

ゲストはサケを呑みオレオをつまみます。

そして薄茶の点前が始まるとトムさんはは整理整頓された棚から奇妙な茶道具を取り出すのです。

トムさん手捏ねの NASA茶碗 です。

そして十徳ナイフのようなツールから茶杓がシャッと出てきました。

茶入からすくった抹茶を茶碗に投入すると電気ポットのお湯をゴボゴボと注ぎます。

そしてモーター付き茶筅のスイッチオン。

モーター音がしたかと思うと一瞬にして茶が点ちました。

正客から順に茶の湯の作法に則りお茶をいただいていきます。

これで終わりではありません。

茶会はここから佳境を迎えたます。

みんなが一服飲み終わると今度は余興の時間となります。

木箱にどっさり入っ金属類を畳の上にばら撒くトムさん。

おもむろにゲームのルール説明をしだしました。(もちろん英語で)

そしてごろんと横になります。

客たちも足を崩して謎のゲームがはじまりました。

時々誰かが何かをするとサイレン音が響きます。

トムさんは楽しそうにサケをゲストに勧めながら寛いでいました。

すべてが終わった後、使用した道具類をすべて片付けると茶室は元の整然した状態に戻りました。

さて今回の「TEA CEREMONY」、日本人から見たら、アメリカ人による茶の湯のパロディとして面白がる見方もできます。

実際に見物客からは滑稽なものをみるような失笑も聞こえてきました。

しかし私はこのアーティストのおもてなしに心から感動していました。

実際トムさんは正式な茶の湯を学んでいると聞きました。

その経験から彼は茶の湯の本質を掴んだのでしょう。

利休のもてなしの心の源泉がLOVEだとしたら、トムサックスさんの場合はFREND SHIP(友情)ではないでしょうか。

友を招き、友とリラックスした時間を過ごすことをしたかったのではないでしょうか?

本質さえ掴んでいれば茶道具やしつらえはもっと自由でクリエィティブに遊べるのです。

このように私は「TEA CEREMONY」の全てからトム ・サックスさんのおもてなしの心をを強烈に感じたのです。

 

千利休たちの特殊能力

千利休をはじめいつの時代にも現代アーティストは存在していました。

20世紀にはジョン・レノンがいました。

ビートルズ解散後間もない頃のこと。来日したジョン・レノンが歌舞伎鑑賞をしたそうです。

話の筋はもちろん日本語もあまり知らないジョンは芝居に釘付けととなり涙を流して感動していたというのです。

アーティストには本質を掴む能力が備わっているということを証明するようないい話です。

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願わくば、ジョン・レノンがホストの「TEA CEREMONY」を体験してみたかったですねえ。

私たちの前でジョン・レノンもお点前を披露してほしかったですねえ。

その時のお茶碗は「NEW YORK CITY」or 「WAR IS OVER!」?