東京ありがた記

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『G0後の世界』著者イアン・ブレマー┃インタビューまとめ

\この記事の内容/

米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏のインタビューまとめ。過去の危機と今起こっていることを比較して考える世界と私たち一人ひとりの“これから“を紹介。(2020年4月NHKのインタビューより)

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アメリカの場合。

 著書『G0後の世界』 で主導国なき世界を示した米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏。突如として緊急事態に突入した世界で今各国はバラバラに対応し協調性に欠けているように映る。“Gゼロ時代“における世界秩序と生き方が変化していく。

 Gゼロ以前の世界で唯一の“G1"として君臨していたアメリカ。ところが今回の危機において未だに国際的なリーダーシップを発揮していない。それは過去の危機対応と比べて見ても明らかだ。

 まずは9.11の危機時、アメリカはブッシュを中心に団結した。支持率92%まで跳ね上がった。欧州はそろってアメリカを支持した。当時敵対していたロシアでさえ協力した。

 2008年の金融危機時もブッシュ、オバマのもとアメリカは再び団結した。欧州も結束していた。アメリカはG20をつくり、中国はアメリカのリーダーシップを支持した。結果、世界恐慌を回避できた。

 しかし2020年、アメリカは団結していない。トランプの支持率46%はブッシュの半分だ。欧州との協調もない。それどころか欧州からの入国禁止を事前通告なしに踏み切った。G7・G20召集の試み、サプライチェーン調整、データ収集の取り組みなど国際社会におけるアメリカの対応はゼロだ。トランプは一切役割を果たしていない。

 国内の実効性のある財政・金融政策実施は評価できるが医療面での対応が遅れためそれにかかりっきりだ。まさにアメリカファーストだ。

┃中国の場合。

今回の危機は経済的打撃に加え政治的問題も大きい。世界秩序が変化していこうとする流れの中、アメリカに変わり影響力を増しているのが中国だ。

 危機の中で中国は素早く行動しているが全て単独行動だ。国際社会への積極外交と責任を否定するプロパガンダ攻勢をかけている。特にアメリカと同盟関係にある欧州で積極的だ。

 そして米中冷戦はテクノロジー分野で始まっている。 5G、AI、クラウドビッグデータ、監視技術で米中は相互投資をしていない。両国の分断が進み競争が激化する。それが今後サプライチェーン、サービス業、製造業に波及すればさらに相互依存が減り争いが起きやすくなるだろう。分断はやがてグローバルに拡大し我々は敗北寸前まで追い詰められる可能性がある。どん底の世界で我々は決断を迫られるかもしれない。 

┃世界を巡る影響。

 企業は従業員の数を減らさないといけなくなる。特にサプライチェーンが機能しなくなることに備えて多くの国がサプライチェーンを強化ささるため自国内に移動させる動きが活発になるだろう。

そして格差はさらに拡大し、ハイテク企業が大きくなり実店舗型企業は倒産していく。さらに新興国の崩壊も現実味を帯び来ている。ウィルスに対抗する有効な手段である「ソーシャルディスタンシング」や「手洗い」の環境が整っていない。感染者爆発の危機だ。そして原油価格の下落も大きな影響を及ぼすだろう。

┃そして犬を飼う?

 9・11の時、ニューヨークは団結していた。私たちは皆が同じ体験をしていたから通りに出て友人や家族に手を差し伸べた。2020年はどうだ?人々はアパートの中に安全を求めている。問題なのは国際宇宙ステーションに一年間滞在した宇宙飛行士の精神的ダメージと同じことが起ころうとしている。人間性が奪われている。人間は社会的いきものだ。つながりが必要だ。それをスクリーン(仮想現実)で得ることは不可能だ。

 これからは個人レベルで対処する方法が必要だ。私たちはいつもと違うことをする必要がある。人間性を失ってはいけない。それには犬を飼うといい。朝に瞑想してもいい。バカにしてはいけない。とても実効性がある行動なのだから。

 グローバルな分断がすでに始まっている。我々は正しい決断ができるのか?試練に勝利することができるのか?または敗北か?最後に問われるのは我々一人ひとりの人間性にかかっている。

《おわり》

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